去る、平成26年10月31日(金)に観光交流スタッフ2名が、伊豆森林管理署主催の『八丁池ブナ群落保護林観察会』に参加させていただきました。
天城山系の稜線には、ブナ、ヒメシャラの混交林がひろがっていて、生態系としても景観としても大変貴重なものであることから、伊豆森林管理署が保護林として管理してくださっています。
今回の観察会は、天城山系の貴重なブナ林を見学することにより、森林管理の仕事や、森林保護について理解を深めて欲しいという目的で、森林管理署の皆さんと地元の天城自然ガイドクラブのガイドさんと一緒に、八丁池周辺の国有林をハイキングしました。
八丁池周辺は、葉っぱ1枚持ち帰るのも環境大臣の許可が必要な、『特別保護地区』となっています。
バスで『八丁池口バス停』に到着後、出発式、そして念入りに準備体操をしてから、5班に分かれて出発。
ガイドさんの説明を聞きながら、森林を歩き八丁池に向かいます。
あいにく、時々小雨が降る天候でしたが、ちょうど紅葉の見頃の時期だったので、雨に濡れて光る紅葉の森の中のハイキングになりました。
しばらく行くと、幹の皮が剥かれてしまっている木がありました。
シカの仕業です。
伊豆市では、ここ10数年でシカが急激に増え、食害で困っているという話はよく聞きますが、実際の光景を目の当たりにすると本当にショックです。
この木だけではなく、この付近には下草が全く生えておらず、シカが新芽を全て食べてしまっているということがわかります。
つまりシカの食害により、この付近には新しい木が育っていないということです。
コルリ歩道に入ると、景色が一変。
つるんとした木肌のヒメシャラの森に入ります。
雨後なので、ヒメシャラの幹が濡れてオレンジに光って大変美しく光っていました。
他にも、キウイフルーツの原種である『サルナシ』の木など、様々な植物を見ることができました。
霧がかかったような神秘的で大変美しい森に感激しながら、しばらく歩いていると、ほとんど下草が生えていないのに特定の植物だけが新芽を出しているのに気づきました。
それはアセビ(馬酔木)という植物です。
アセビを食べた馬が、毒にあたって酔ったようにふらつくから、この字が当てられたといわれています。
毒があるアセビは、シカが食べないので、ここ最近は天城山でもどんどん増えているようです。
対して、ブナなど他の木の赤ちゃん(新芽)はシカが食べてしまっているので、新たに育っていないそうです。
「100年後の森は、まったく違った景色になっているでしょう」
そうおっしゃっていたガイドさんの言葉が耳に残りました。
今あるブナの木の寿命が来て倒れたら、次の世代のブナが育っていない為、ブナの森は消えてしまう危機にあります。
すでに食べられてしまったブナの赤ちゃんはもう戻らないのに、今あるブナの寿命(200~300年)は確実にせまってきています。
ガイドさんが、ハイキング中にブナについてのお話をしてくださいました。
ブナの森は『緑のダム』と表現されるほど保水力があり、樹齢100年のブナの木1本が蓄える水は8トン以上もあるそうです。
ブナの森は落葉した葉が長い年月をかけてフカフカの腐葉土となって地面を覆い、スポンジのように雨水を受け止めて、その後ゆっくりと地面にしみこんでいくので、急激な降雨があっても土砂崩れや土石流を防いでくれます。
そして、ゆっくりとしみこんだ水は、長い年月をかけて濾過され、栄養分を含んだ豊富な地下水となります。
天城山周辺の年間降雨量は、4000mmを超えており、縄文杉で有名な屋久島と並ぶほどの降雨量です。
その大量に降る雨をブナの森が受け止め、ゆっくりと天城山の土にしみこんでいきます。
長い間をかけて濾過された栄養豊富な水は、大量に水が必要になるワサビを育てるのに利用され、山麓の農産物は森の恩恵を受けています。
そんな素晴らしい森が、シカの食害によって失われつつある現実を知りました。
目的地の八丁池は、以前は『火口湖』であると認識されていましたが、最近の調査により、断層のズレが生じた部分に水がたまってできた池であることが分かったのだそうです。
その八丁池に着くころに雨が本格的に降り始め、雨の中のお弁当タイムとなりました。
食後は雨合羽に着替えて、別ルートを使って『八丁池口バス停』に戻ります。
帰りのルートで、他の参加者の方が「以前ここを通った時は、歩道の両側は笹で覆われていたと思ったんだけど…」とおっしゃっていました。
たしかに10年前までは、背丈の低い笹が森をびっしりと覆っていたのだそうですが、ここもすべてシカに食べつくされており、その面影もなく、枯れた笹の茎だけが残され、とてもさみしい光景でした。
ブナ林内の下草がシカに食べつくされていることから、平成24年10月に、伊豆市立天城中学校の3年生等と一緒に、ブナ林内に試験的にシカの食害を防ぐための『植生保護柵』を設置しました。
設置後1年が経ちましたが、柵内の状況を定期的に調査しているそうです。
観察会の際には時間があまりなく、前を通り過ぎただけでしたが、柵が張られた中の地面だけ植物が育って緑色をしていて、柵の中と外では一目瞭然の違いでした。
今回の『八丁池ブナ群落保護林観察会』に参加させていただき、天城山の自然の素晴らしさを感じることができました。
又その山を管理してくださっている『伊豆森林管理署』の森林整備や治山事業の仕事についても触れる事ができました。
そして、ガイドさんから様々な説明を聞けたので、天城山にある植物の種類、ブナの森の役割、八丁池の成り立ちなど様々な事を知ることができてとても良いハイキングとなりました。
ガイドツアーで、ハイキングが数倍楽しくなるということを実感しました。
そしてなにより、シカの食害は本当に深刻な状態になっていた事も目の当たりにして、とても衝撃でした。